
朝日新聞のスピノザに関する記事で、
『経済学の船出』 が紹介されていた。
「一方、振り子実験で知られたホイヘンスとの交流を想定するのは
安冨歩『経済学の船出』(NTT出版・2520円)だ。現代の決定論的カオスを取り入れ、「共」を超える「非線形のエチカ」を構想する。」
と書いてあった。紹介していただいて、大変嬉しい。嬉しいのだが、拙著の議論の力点と微妙に違っているので、解説しておきたい。
(1)ホイヘンスとスピノザとの交流は、私が想定しているのではなく、単なる歴史的事実である。手紙にも残っているいるし、いろいろ証拠があって、スピノザ研究者なら、誰でも知っている。
(2)私がここで主として論じたのは、決定論的カオスではなく、「同期」という現象である。よく似た2つの振り子時計が同じ壁に掛かっていると、お互いに、本当は微妙にふれ具合が違っているのに、双方で歩み寄って、同じ振動数でいつまでも振れ続ける、という現象で、ホイヘンスが実験中に偶然発見した。これが、「非線形現象」というクラスの現象なのだ。
(3)ホイヘンスとスピノザとが友達であることは、スピノザ研究者は誰でも知っていたが、ホイヘンスが非線形現象の発見者であることは、誰も知らなかったようである。私は、非線形科学をやっていたので、ホイヘンスの実験は知っていたが、スピノザを知ったのは最近だった。それで、『エチカ』を読んだら、非線形っぽいので、気になって、調べてみたのである。そしたら、スピノザが『エチカ』の執筆の中断を伝える手紙のなかに、ホイヘンスの実験のことが書いてあったので、驚愕した。もっともスムーズな解釈は、
「ホイヘンスの同期実験を知って、スピノザはショックを受け、エチカの構想を練り直したので、執筆を中断した。」
ということになる。
(4)それゆえ、スピノザの『エチカ』が、そもそも、「非線形」なのだ。
(5)しかし、スピノザは、決定論的カオスを知らなかったので、決定論的方程式から、必然的に、非決定性が出てくることを知らなかった。
(6)この点を考慮すれば、決定論的世界に、人間の主体性を強調する、というスピノザの「矛盾」に見えるものが、見かけ上のものに過ぎないことを示すことができる。
(7)この方向でスピノザ思想を整理すれば、「非線形のエチカ」が得られる。これは、現代の倫理にふさわしいものとなるだろう。
私が本書でスピノザについて論じたのは、以上のようなことである。
スポンサーサイト
- 2012/01/30(月) 13:41:05|
- ブログ
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0