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マイケル・ジャクソンの思想

「家政婦のミタ」とマイケル・ジャクソンの思想(4)

ミタさんが阿須田家でやったことは何か。それは個々人が押し隠しているものを表面化する行為であった。それは常に社会の常識の範囲をはるかに超え、法律の範囲も超えて突き進む。挙句の果てに自分で灯油をかぶって火をつけようとする。

すべて彼女は「業務命令であれば、頼まれたことを何でもやってしまう」ということになっている。「承知しました」と言って。しかし、考えてみれば、彼女は自分がなくて、ロボットのように他人の言いなりになっているのではない。それは常に「私にできることであれば」という条件が付いていることからもわかる。また、笑うことだけは最終回まで業務命令でも拒否していて、言われるとお暇をもらう、と言い出した。

彼女がやるのは、実のところ、自分がやりたいことを、他人の命令の形を借りてやっているのである。それは灯油を被るシーンに最も的確に現れている。彼女は、自分で自殺しようとしてもどうしても死ねないので、「死ね」と業務命令される日を待っていたのである。

それは実のところ、第一回でも同じことをやろうとしていて、幼稚園の帰りにキイちゃんが、母親が溺れ死んだ川にはいって天国に行ってお母さんに会いたい、と言ったら、「承知しました」と言って、二人で川に入るのである。このときは長男が止に来てあやうく難を逃れたが、それは焼身自殺のシーンも同じで、子どもたちが止めに来なかったら、マジで火をつけるところであった。止められたミタさんは「いい加減にして!」と絶叫していたが、それは第一回に長男に妨害されたシーンを踏まえているのであろう。

第一回では母親の形見を燃やしているが、ミタさんは夫の形見のドクターズバッグと子どもの形見の帽子腕時計とをいつも身につけている。実のところ、死者の呪縛から逃れて形見を燃やしてしまわないといけないのは、彼女の方である。形見を燃やすという命令を躊躇なく行動に移したのは、この自分ができないでいる行為の代償のためだと思われる。

この形見燃やしで、燃え上がる形見と仏壇とを見ながら子どもたちは、

(1)自分は長女らしいことは何も出来ない。(結)
(2)自分は母親に嫌なことを言われたことと、うるせぇと言ったことしか思い出さない。(翔)
(3)自分は私学を目指して頑張って勉強していたけど、もう合格しても褒めてもらえない。母親が自分のことをどのように考えていたのかわからない。(海斗)
(4)自分は無理やりトマトを食べさせられそうになり、お母さんなんか死んじゃえ、と言ったら、本当に死んじゃったと思って後悔している。(希衣)

という思いを吐露する。これらはすべて、母親が子どもたちのことを強く呪縛していることを明らかにしている。長女には「長女らしくしろ。できない、お前は悪い子だ」とプレッシャーを掛け、長男には純粋な憎悪を向け、次男には「私学に合格すれば褒めてやる、そうでなければお前は無価値だ。」というメッセージを送り、次女には「お前が私を殺したのだ」という恐るべき呪いを掛けている。

ミタさんの行った形見燃やしは、このような母親の呪縛を見抜いた上での行動だと思われる。実際、この場面で子どもたちが上のような吐露を行ったことで、彼らはかなりの程度、この呪縛から自由になり、希衣の誕生日パーティーを続行できた。その場面でミタさんは、母親の肉じゃがと同じ味を再現して全員に衝撃を与えているが、これもまた、呪縛からの離脱の効果があるものと思われる。それは「母親の味は彼女一人のものではなく、再現可能である」ということを示しているからである。

このドラマの主軸は、

(1)ミタさんに掛けられた死んだ夫と息子の呪縛。
(2)阿須田家に掛けられた死んだ母親の呪縛。

の二つの呪縛からの離脱ではないかと考えられる。その二つの軸のからみ合いがドラマの主たる作動のエネルギーを与えているように感じられる。
(つづく)

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  1. 2011/12/23(金) 11:07:09|
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  4. | コメント:4
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コメント

1 ■すごい!

さすがは東大教授!
論文書いたら天才的ですね。

昨日やっと録画しておいた最終回を見たとこです。
やっぱり自然に泣けました~。
ミタさんの泣き笑いの表情が美しかったです。

突っ込みどころ満載のドラマだと思いましたが、夢中になってしまいました。

でも、家庭に背を向け、浮気して、離婚まで迫ってた男が、四人の子供たちの前で土下座して「お前達の父親にしてくれ!」と泣きじゃくるシーンはいまだにありえんだろ~と思います。
それと、いくら料理がうまくても、あそこまで冷たい表情をした人に子供がなつくのもありえない気がします。

出発点は、
「お手伝いロボットと主婦の苦悩を取り込んで、視聴率を上げよ!!」
というような無理な指令だったのでは・・・
と想像しました。σ(^_^;)
  1. 2011/12/24(土) 09:31:55 |
  2. URL |
  3. きゅうばじん #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

2 ■Re:すごい!

>きゅうばじんさん

この父親は「自分というものがないので一貫性を欠いており、周囲の情況次第でどのようにでも振舞う小心者」ですので、ご指摘のような一貫性の欠如こそが、彼としては一貫している、ということになろうかと思います。

子どもたちはミタさんに「なついている」のではありません。彼らは命がけで、ミタさんと対決し、共に成長しているがゆえに、信頼しているのです。

想像されているようなことを思った人は、想像力の欠如したテレビ界の偉い人々の中には、必ずいたと思います。しかし、このドラマは、そのような下賤な心を方便として生まれた、我々が目を背けたくなる真実を、あたかも好都合な「面白いお話」であるかのようにして届ける、本来の意味での方便である、と私は考えております。

これはまさに、奇跡的なことであり、それゆえ、奇跡的な視聴率を実現したのでしょう。最適化思考で実現できることでは、決してないのです。
  1. 2011/12/24(土) 10:55:28 |
  2. URL |
  3. 安冨歩 #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

3 ■うお~!!

深いっすねえ(≧▽≦)
そっかそっか、そう言えば「奇跡とは」っていうミタさんの解説がありましたが、あれにもそうとうな思いが込められてるように感じました。
まさに奇跡の視聴率でしたもんねええ!!
シリーズ化してくれたらいいな・・・なんて野暮ですよね。
  1. 2011/12/24(土) 11:19:27 |
  2. URL |
  3. きゅうばじん #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

4 ■Re:うお~!!

>きゅうばじんさん

>きゅうばじんさん

深いです。

シリーズ化は十分可能で、別の破綻した家に行って、同じようなことを繰り返せば良いのです。それで陳腐化していけば、視聴率は徐々に下がりながらも、ドル箱として機能して「家政婦は見た」シリーズくらいにはなるでしょう。しかし、全く無意味なドラマになるに違いありません。

逆に、シリーズ化によってどんどんテーマを深めていき、現代社会の家庭の真実を次々に明らかにして、より深い衝撃を与えていって、社会変革を引き起こす、という道も十分に可能だと思います。そのためのテーマやプロットはいくらでもあります。ですが、果たして、現在、テレビ業界に巣食っている人々に、そんなことが可能かというと、不可能だと思います。奇跡が起きて欲しいと、念じますが。
  1. 2011/12/24(土) 11:40:35 |
  2. URL |
  3. 安冨歩 #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

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