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ファンタジーへの逃避で平穏を保ってきた彼らが
いま原発問題にこころの平穏を見出している
彼らは、こころの平安を取り戻すためにゲームやアニメ、あるいはアイドルといったファンタジーに逃避し、気持ちを落ち着かせてきました。
ファンタジーの世界には、彼らが現実の世界で不満に思っていることは出てきません。登場したとしても、悪者として描かれるのでいずれ排斥される運命が待っています。
これまで、彼らが現実逃避のためにのめり込んでいった代表的なものが「新世紀エヴァンゲリオン」でしょう。
惹きつけたのは、登場するキャラクターの魅力やファンタジーとしての世界観だけではありません。このアニメには、精神分析、神学など多様な学問領域があり、様々な専門用語が散りばめられています。
彼らは、精神分析の分野で未知なるものが登場すると、先を争って精神分析の本を読み漁りました。宗教的な用語の背景を知ろうと、こぞって宗教学の本と格闘したのです。
そんな彼らが、いま原発問題に向かっています。
ファンタジーの世界ではなく、現実のなかに逃避を正当化できるテーマが出てきたからです。彼らにとって、これほど学びがいがあるテーマはありません。「新世紀エヴァンゲリオン」とは比較にならないほど高度に体系化された世界だからです。
私たちは何気なく原発問題と表現していますが、この問題にはすべての学問領域を網羅する壮大な体系が存在しています。物理学的な側面、工学、建築学などの要素。原発をめぐる政治、環境問題。これまでの原発を取り巻く歴史、文学など、一つの小宇宙と言ってもいいと思います。
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上の主張は以下のようにまとめられよう。
(1)ニートや引きこもりは、逃避のために二次元に逃げ込んだ。
(2)ファンタジーの世界では嫌なことは起きない。起きても勧善懲悪。
(3)彼らは「新世紀エヴァンゲリオン」にはまって、精神分析や宗教の本と格闘して暇つぶしをした。
(4)原発問題は、そういった逃避の新しい手段に過ぎない。
(5)現実なので暇つぶしが正当化される。
この主張は完全に矛盾している。なぜなら、現実世界の原発問題では、
(2)ファンタジーの世界では嫌なことは起きない。起きても勧善懲悪。
が成り立たないからである。原発問題では嫌なことが起きまくる。起きまくる上に、勧善懲悪が全く作動しない。それゆえ、「逃げこみ」の対象にならないはずである。
では彼女の議論のどこがどう間違っているのであろうか。私の考えは以下である。
(1)本田透氏が『電波男』の「あとがき」で示したように、彼がアニメなどに没入していったのは、母親のネグレクトへの必死の対応であった。三次元世界での「愛」の不在のゆえに、二次元世界に存在する「愛」を求めたのであり、彼は自らの信じる「愛」を守るためにそうした。私は、立証は難しいが、この見解がいわゆるオタクの形成過程として、本流なのではないかと考えている。
(2)彼らがやっていることは、愛の欠如した異常な世界への必死の対応と見るべきである。別の言葉で言えば、「タガメ女」がウヨウヨしている田んぼに飛び込むのを恐怖した「カエル男予備軍」が、そのまま田んぼをスルーして、二次元空間へと避難したのだと解釈している。
(3)エヴァンゲリオンを経由して精神分析や宗教の書物を彼らが求めたのは、そこに「愛」を取り戻す糸口を見出したからではないか。
(4)インターネットで原発問題を真剣に論じている人々は、ここで香山氏が対象としているような経緯の人ばかりではないが、「エヴァンゲリオン⇒原発」という人もいるであろう。
(5)原発事故とその後の経緯は、日本社会の何がどう狂っているのかを白日のもとに晒した。エヴァンゲリオンをやっていた人々は、まさにそこに自分たちが求めていた事実を見たのではないか。
(6)ちなみに「ネオむぎ茶」は、彼ら抱える苦悩と同質のものを直接に表現した、という意味で、彼らの注目を集めたのであると考えれば、一貫して理解することができる。
つまり
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ファンタジーの世界ではなく、現実のなかに逃避を正当化できるテーマが出てきたからです。彼らにとって、これほど学びがいがあるテーマはありません。「新世紀エヴァンゲリオン」とは比較にならないほど高度に体系化された世界だからです。
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と香山氏は言っているが、原発を必要とし、原発を維持する社会の構造のなかに、彼らの苦悩の根源を見出したがゆえに、彼らは「学びがい」を感じているのだと私は解釈する。それは、単なる暇つぶしではない。おそらく、金儲けと出世とのために勉強している香山氏よりは、遥かに真剣に取り組んでいるのではないだろうか。
(つづく)
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- 2011/07/10(日) 12:32:38|
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