日本原子力学会が、
■被曝による健康への影響と放射線防護基準の考え方(2011/4/14)という文書を出していた。これも、人を騙そうとする書き方がされているが、
「■プレスリリース「福島第1/第2発電所 放射線レベルについて」(2011/3/16)」に比べると、騙し具合が弱まっている。
まず、ICRP勧告を、
(1)正当化(Justification)、
(2)防護の最適化(Optimization)
(3)線量限度(Dose Limit)の三原則に基づく放射線防護体系
を基本としている、とする。それぞれの内容は以下である。
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(1) 正当化:いかなる行為も、その導入が正味でプラスの利益を生むものでなければ採用してはいけない。(放射線等の利用によりリスクを上回る便益があること。)
(2) 防護の最適化:すべての被曝は、経済的及社会的な要因を考慮に入れながら合理的に達成できる限り、低く保たなければならない。(できるだけ被曝を低減すること。)
(3) 線量限度:医療被曝を除く、すべての計画被曝状況では個人の被曝は線量限度を超えてはならない。(医療被曝については、基本的に放射線被曝を受けることによるリスク以上の便益(病気を発見する、病気を治療するなど)があると考えられるため、 お医者さんの判断に基づいて管理されています。)
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この原則は重要である。特に、「放射線等の利用によりリスクを上回る便益があること」という正当化原則は重要である。この原則から、原子炉から出てきて、何の利益もないのに、浴びせられたり、飲まされたり、食べさせられたるする放射能による被爆は、全く正当化されない、という重要な帰結が得られる。これが我々にとって、何よりも重要な原則である。
日本原子力学会の会員が運営に直接間接に関与する原子炉から出てきた放射能を、我々は、ほんのわずかでも、浴びせられる筋合いはない。なぜなら、そこから何の利益も得られないのだから。このことが、この正当化原則から出てくることを明記しておきたい。しかし、彼らは、この重要な帰結を書いていない。
次に、
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100mSv(ミリシーベルト)以下の被曝では確定的影響(*1)は発生しないとしていま す。一方、100mSv未満の被曝であっても、がんまたは遺伝性影響の発生確率が、等価線量の増加に比例して増加するであろうと仮定するのが科学的にもっともらしいとしています。これを確率的影響(*2)と呼んでいます。
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とする。つまり、100ミリシーベルト以上浴びたら、必ず、健康に影響がある。それ以下だったら、健康に影響があるかもしれないが、それは、「等価線量の増加に比例して増加するであろうと仮定するのが科学的にもっともらしい」という。これは、私が繰り返し指摘している、「線形しきい値なし仮説」である。ICRPは、低レベル放射線被曝についての、線形しきい値なし仮説を明確に保持しているのである。
つぎに、低レベル放射線被曝について説明する。
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・ICRPが勧告するがん死に対するリスク係数は、1Svあたり約5%である。
・これに基づけば、100mSvの被曝により、がんで死亡する確率が約0.5%増える。
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この係数は、既に述べたように、ゴフマン係数よりかなり甘い。ゴフマン係数は、2.68人シーベルとで、誰かが癌で死ぬ。ICRP係数は、20人シーベルトで誰かが癌で死ぬ。しかしそれでも、その差は7.5倍である。ということは、もしも、首都圏3000万人が、100ミリシーベルト被爆したとすると、
300万人シーベルト÷20シーベルト=15万人
が癌死する、ということである。ゴフマン係数ならその7.5倍となる。
現段階では首都圏ではこれほどの被曝は起きていないが、福島県では実際に起きている。仮に30万人が一人当たり、100ミリシーベルト被曝したならどうだろうか。政府は年間20ミリシーベルトまでは全然OKとわけのわからないことを言っており、福島県の人口は200万人いるので、これは現実的に十分予想される数字である。そうすると、ICRP係数で1500人が癌死する。十分に憂慮に価する数字ではないだろうか。ゴフマン係数なら、1万1千人を超える。
ところが、日本原子力学会はこういう。
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・日本人の約20~30%ががんで死亡していることを考えると20%が20.5%になる程度である。
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1500人の癌死くらいなら、気にならないでしょ、というのである。なぜなら、
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・この変化は生活習慣の違い(食事、喫煙など)による変動の幅に埋もれてしまう程度である。
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からだ、という。
こんな屁理屈で安心しろ、というのは無理である。ここで彼らが明言していることは、この程度の水準なら、生活習慣の違いなどの変動の幅に埋もれてしまって、
原発のせいだとは、バレない水準ですということである。生活習慣の違いなどに埋もれてしまってバレないのは、東電や政府や日本原子力学会にとってはまさしく嬉しい知らせである。しかし、死ぬ方にすれば、たまったものではない。それに死ぬのは現時点の子供が中心である。自分の子供が、20年後に、青春のただ中で、癌や白血病でもがき苦しみながら死ぬのを看取る方にとっては、たまったものではない。しかも、低レベル放射線被曝と癌死との関係性を立証するのは不可能に近いから、泣き寝入りを強要されるのである。
さて、ICRPは彼らの議論に基づいて、次のように勧告している。
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ICRP文書(2011年3月21日付、ICRP ref:4847-5603-4313)の要点
・ICRPは日本の状況について深い同情の念を表明するとともに、我々の考えを述べる。
・我々の最近の勧告が役に立つことを望むとともに以下を推奨する。緊急時の公衆の防護のために、計画される最大の残存線量(防護措置が完全に履行された後に被ると予想される線量)に対する参考レベルを20~100mSvのバンド内で政府が設定すること。
・線源が管理できるようになれば、汚染は残っていても、人々がその土地を放棄するのではなく、生活を続けられるようにするため、必要な防護策を取ることになる。この場合1~20mSv/年のバンド内のレベルを選び、最終的には1mSv/年の目標に向けて進む。
・緊急事態の作業者は生命を守るために、500~1000mSvの限度を守ること。
・生命救助の作業者は志願者を充て、線量限度は設けないこと。
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以上のICRPの勧告に従って日本原子力学会は次のように宣告する。
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ICRPは、100mSv以下の線量では確定的影響は起きないこと、確率的影響のリスクは十分低いことから、正当化・最適化が考慮されれば上記の考え方を適用可能としています。
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これはつまりどういうことかというと、
「住み慣れた故郷に住み続けるという利益が、年間20~100ミリシーベルトの被曝から来るリスクを上回っているので、正当化される」
ということである。
なんという屁理屈だろう!!
住み慣れた故郷に住むのは<利益>ではない!!
それは当然の権利ではないのか!!
どうして、そんなことのために、被曝が<正当化>されねばならないのか!!
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- 2011/04/14(木) 23:39:05|
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