そういうわけで、地球全体の水循環がエントロピーを捨ててくれていることが、地球環境を支える大前提である。この巨大な循環をエンジンとして、大気などの物理的循環が形成され、それと相互依存する形で、生態系を通じた生命的循環が構成されている。
生命のもたらす物質循環と、物理的な循環とは切れていない。たとえば山から水に溶けて様々の有機物が流れ落ちてくる。それは物理的な力だけでは、下に行くばかりで、最後は海に行ってもう帰ってこない。ところが生命がその有機物を利用する。利用するだけではなく、食物連鎖を通じて移動する。有機物を捉えたプランクトンを魚が食べる。その魚を水鳥が食べる。その水鳥を猛禽類が食べて、山に帰って排泄したり死んだりして有機物を山へ戻す。鮭の遡上も重要で、それを熊がとり、熊が食べ残したものを色々な動物が食べて、有機物を山へ戻す。こういう循環を通じてエントロピーが集められ、最終的に水の循環を通じて宇宙に捨てられることで、豊かな地球環境が維持されている。
人間もこの循環の一員であることに、何のかわりもない。この循環を乱してしまえば、やがて生態系が崩壊し、人間も住めなくなる。それは有史以来、色々な文明が繰り返してきた愚行であるが、それでも人類が生き延びてきたということは、この循環となんとか折り合いをつける智慧を維持してきたことを意味する。
科学技術の発展と化石燃料の利用によって事情が変わってきた。人間の活動の創りだすさまざまの物質の流れが、地球の循環を圧倒し始めたのである。しかしそれでも、化石燃料は所詮、昔の生き物が集めたり作った物質の塊であるから、そこから出るゴミは、まだ生態系によって利用可能なものもあった。たとえば、化石燃料を燃やして出てくる二酸化炭素は、光合成にとって不可欠のものであり、それが増えるても、光合成が増えれば、何の問題もない。
ところが原子力はそうではない。原子力が生み出す放射性廃棄物は、生態系にとって何等の利用価値がない。それは単に生命を破壊する。地球ができた頃にはこういう物質がたくさんあったが、ほとんどは崩壊していった。半減期が永いプルトニウムでさえ、2万6千年であるから、地球の歴史から見れば、あっという間に崩壊してなくなっていたからである。
それゆえ、生命は放射性同位体を、放射性のない同位体と区別することができず、取り込んでしまう。取り込むと、放射線を至近距離で浴びる内部被曝をしてしまう。この物質が循環することは、生態系を破壊することになる。これが放射性物質の本質的な危険性である。こんなものをばら蒔いてしまうと、生態系の関与する循環の全体に悪影響を与えてしてしまうのである。
(つづく)
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- 2011/04/09(土) 01:20:00|
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| コメント:3
私も続きが楽しみで、大変重要なお話だと思いました。原発の問題性は皆わかってはいますが具体的に話せとなると自信ない人が多い気がします。このようなお話は大人はもちろん、特に若い人や子供に知ってほしいです。コピーして持ち歩こうと思います。安冨さんのお話、これからも期待してます!(肩こりの負担にならない程度に)
- 2011/04/09(土) 15:14:50 |
- URL |
- chico #79D/WHSg
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直りましたね。
私はコピーして周りの人に読んでもらいました。
政府が言ってることと、どっちがウソなんだろうねって言われちゃいました。まだ多くの人はこんなもんですかね・・・(ノ_-。)めげずに伝えたいです。
- 2011/04/09(土) 17:11:31 |
- URL |
- ゆき #79D/WHSg
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