お二人が言っておられることは、大げさな話ではない。
但し、瀬尾モデルによる小出氏の予測は確か、チェルノブイリ型の事故を想定している、と私は理解している。今回は既に一旦、停止しているので、1号機と3号機とが水蒸気爆発を起こしても、そこまでの範囲には広がらないかもしれない。とはいえ、3号機はMOXであり、更に、2号機も爆発するおそれが十分にある。それに既に述べたように、どれかひとつが破局に至ると、他の原子炉にも接近できなくなるので、暴走する。その場合には、1~6号機の使用済み燃料も無事では済まない。そこまでいくと、福島第二原発まで汚染のために接近できなくなりかねず、最悪の最悪を想定すれば、10機の放射性物質が溢れ出す。この場合には、チェルノブイリを遥かに上回る汚染が生じることは、言うまでもない。
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放射能 見えない恐怖と知っておくべき「本当の話」
小出裕章氏インタビュー
週刊朝日2011年03月25日号配信
建物から勢いよく噴き上げる灰色の噴煙。福島第一原子力発電所で1号機に続き、3号機でも水素爆発が起こった。心臓部である格納容器は無事だったと言われているが、まだ予断を許さない状況に変わりはない。『隠される原子力・核の真実 原子力の専門家が原発に反対するわけ』(創史社)などの著書もある京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏(61)はこう警告する。「もし、格納容器が爆発すればチェルノブイリになる」。東京は、日本は、そのときどうなってしまうのか──。
──福島第一原発の1号機と3号機で、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故と同様に炉心が溶融して大爆発が起きたら、どうなるのでしょうか。
おしまいですよ。放射能による被害の大きさは原子炉の電気出力に比例します。旧ソ連のチェルノブイリ原発は100万キロワットでした。福島第一原発1号機の46万キロワットと3号機の78・4万キロワットを合わせるとチェルノブイリ以上の規模になる。チェルノブイリ原発事故では、日本であれば、法令で放射線管理区域にあたる1平方キロあたり1キュリー以上の汚染を受けた土地は原発から700キロ先まで広がりました。これは、東京をはじめ、名古屋、大阪まで入るほどの広さに匹敵します。
原発の事故災害評価をしてきた京都大学原子炉実験所の故・瀬尾健氏の研究をもとに、私が福島第一原発で110万キロワットレベルの原子炉が爆発した場合をシミュレーションしたところ、原発から10キロ圏内の急性死亡率は99%を超えることがわかりました。南西方向に風速4メートルの風が吹いていた場合、ある程度の時間がたって発症する放射能の「晩発性影響」によるがん死者は、東京でも200万人を超えるという結論が出ました。
◆本州は関東まで居住が不可能に◆
さらに、放射線の強さが半減するまでの時間を意味する「半減期」が30年の「セシウム137」などの放射性物質が大量に放出され、飛散する範囲は半径320キロにも及びます。北は岩手から南は神奈川、山梨まで、本州の関東以北は事故後、数十年にわたって土壌が放射能に汚染され、人間が住むことができなくなってしまう地域が出る可能性があります。
──枝野幸男官房長官は、記者会見で、1号機と3号機は水素爆発を起こしたものの、「格納容器は健全である」と言っています。いったい、内部では何が起きていたのでしょうか。
通常であれば、原子炉圧力容器をおさめた格納容器のなかは、窒素で満たされており、決して爆発を起こさないようになっています。限られた情報から推定するしかありませんが、今回、炉心溶融によって発生した水素や酸素が逃し弁から格納容器内に放出され、格納容器内の冷却用プールの水も炉心の温度が高くなりすぎたために水蒸気となった。その結果、最大4気圧程度までしか想定されていなかった格納容器内が8気圧まで上昇してしまった。
しかし、格納容器が爆発してしまっては、もろに放射性物質が飛び出すことになる。そこで、ベントという弁を開けて格納容器内の圧を下げることにしたわけです。放出された水素が建屋の上部にたまり、爆発した可能性が高い。こんなことが起きるなんて、私の記憶にある限り、世界でも初めてのことです。
──爆発の結果、福島第一原発から100キロ以上離れた女川原発(宮城)の敷地内でも一時、放射線量が通常の4倍以上の数値を記録しました。福島第一から流れたとも言われています。
もともと、格納容器の弁の先には放射性物質を捕まえるフィルターがついています。フィルターは完全な気体である「クリプトン」や「キセノン」などの希ガスは捕まえられないため、弁を開けた時点で、ある程度の放射性物質は外に出ることになるのですが、今回はそのフィルターが多量の水分で目詰まりを起こして、吹き飛んでしまった可能性が考えられます。そのため、ヨウ素など本来なら外に出るはずのない放射性物質も飛び出しているのではないでしょうか。今回、周辺で被曝した人たちのなかには、体や衣服に付着した放射性物質を落とす「除染」を受けた人もいましたが、長年、原発の現場で研究をしてきた私も除染を受けるほどの被曝をしたことはありません。すでに放射性物質は体内にも入っていると考えられます。
◆これからのこと予想もつかない◆
──1号機はウラン燃料、3号機は昨年9月からMOX燃料を使っています。
MOX燃料はウランの酸化物とプルトニウムの酸化物を混合したものです。プルトニウムの生物毒性はウランの20万倍とも言われています。実際に爆発した場合の毒性は単純に20万倍というわけではありませんが、ウランだけの燃料に比べ毒性が高まるのは間違いありません。
さらに、プルトニウムは本来、高速増殖炉で使用すべきものであり、福島第一原発にある沸騰水型炉で使用すべき燃料ではない。家庭用の石油ストーブにガソリンを混ぜた灯油を入れているようなものです。平常時であっても、軽水炉でMOX燃料を使用するということ自体が、非常に危険なことなのです。
それでも、日本の原発がMOX燃料を使用しているのは、日本が世界有数のプルトニウム保有国だからです。第2次世界大戦中に長崎に投下された原爆はプルトニウム爆弾ですが、現在、日本はプルトニウム原爆を4千個も作れるほど保有しているのです。そのため、世界から早急にプルトニウムを消費することを求められている。だが、国内にある高速増殖炉「もんじゅ」は、1995年に起きたナトリウム漏れ事故などで操業停止になっています。そこで、国から泣きつかれた東京電力など電力各社は、軽水炉でMOX燃料を使うことにしたわけです。
──1号機と3号機はとりあえず、危機を脱したと見てよいのでしょうか。
わかりません。冷却水の水位が下がったことで、炉心が露出してしまい、炉心溶融が起きたのは間違いありませんし、これからどうなるのかも予想がつかない。私は、これまで、再三にわたって警告してきましたが、地震や津波などの非常事態に備えてあったはずの非常用電源も電源車も、何の役にも立たないことがハッキリしました。
これは、チェルノブイリや米国スリーマイル島の事故に匹敵するようなシビア・アクシデントなのです。 (本誌・大貫聡子)
◆原子炉爆発すれば十数時間で放射能は首都圏へ◆
「死の灰」と呼ばれる放射能の健康被害は、計り知れない。
1986年に起こったチェルノブイリ原発事故では、広島と長崎の原爆を合わせた放射能の約200倍もの放射能が放出された。福島第一原発の1、3号機を足した原子炉の電気出力は、チェルノブイリ原発の100万キロワットを超える。京都大学原子炉実験所助教の今中哲二氏は、チェルノブイリは将来分も含め"死者"は、10万~20万人と指摘しており、万が一、日本でも首都圏に飛散すれば、大量の被害者が出る可能性がある。
原子力資料情報室の上澤千尋氏は言う。
「放射性物質は、全体的に一定の速度で広がるのではなく、風向きによって扇状に飛散していきます。『ホットスポット』と言って、雨雲などに乗って、飛び地で雨と一緒に『黒い雨』として降ることもあります」
福島原発の場合、例えば、茨城県の上空を通過して、東京が被爆する可能性もある、ということだ。
上澤氏によると、被曝した時の症状は大きく分けて二つある。
(1)急性障害 100~250ミリシーベルト超の被曝をすると、直後から数カ月以内に、めまいや嘔吐、脱毛などの症状が現れる。重篤な場合は、内臓が機能障害を起こしたり、皮膚がただれて全身ヤケドのような症状を起こしたりして、死にいたることもある。
1999年の「JCO臨界事故」では、ステンレスのバケツでウラン粉末を溶かして沈殿槽に注入したさい、核分裂が連鎖的に続く臨界状態となり、作業員2人が急性障害で死亡した。
(2)晩発性障害 数年~数十年後にがんや白血病などを発症する。一般人の年間被曝線量の限度である1ミリシーベルトでは、がん罹患率は1万人中500~1千人と言われている。それが、2ミリシーベルトになると、がん罹患率も比例して2倍になると言われている。
このほか、被曝すると、免疫機能が下がるため、他の病気を引き起こす可能性も高くなるほか、遺伝子に傷がつき子孫への影響も懸念される。
では、万が一、放射性物質が飛散してきたら、どう対応したらいいのか。
「とにかく、放射性物質にふれないことが重要です」(上澤氏)
原子力安全・保安院などはこう注意を促している。
(1)屋内退避。換気扇や冷暖房を止め、窓を閉めて、外気が室内に入らないようにする。特に、雨は大気中の放射性物質を地上に降らせるため、当たらないようにする。
(2)外出する場合は、長袖、長ズボン、ゴーグル、フード付きのコートなどを着て、外気に触れないようにする。防塵用のマスクや、濡らしたタオルで口や鼻を覆う。室内に入る前に、コートなどは袋に入れて密閉し、室内に放射性物質を持ち込まないようにする。
(3)万が一、肌に付着したら、洗い流す。
(4)ヨウ素剤を服用する。
しかし、これらのことをしたとしても、被曝しないかといえば、そうではない。
「大気中に放射性物質が蔓延しているので、ドアを開閉しても室内に入ってくるし、スーパーなどの商品に放射性物質が付着している場合もある。物理的に考えて、完全に被曝を防ぐことはできない。気休めにしかなりません」(同)
福島第一原発の爆発で避難した人のうち、40歳未満全員が甲状腺がんを防ぐ「ヨウ化カリウム」を服用した。事前に放射性のないヨウ素剤を服用することで、放射性ヨウ素を吸い込んでも甲状腺が飽和されているため、甲状腺がんの予防になるという。「ヨウ化カリウム丸」(日医工)などがあるが、購入するには、原則、医師の処方箋が必要となる。
しかし、上澤氏はこう言う。
「甲状腺が活発な若い人は飲んだほうがいいが、放射能は何十種類もあるので、ヨウ素剤では、ヨウ素以外の放射能は防げません」
さらに注意しないといけないのは、身近に放射能が飛散しなくても、被曝した地域の農産物や畜産物などを口にしたら、そこから体内被曝をすることもあるし、水源地が被曝していれば水道から被曝してしまうことにもなる。
放射能が飛散すればするほど、被曝を防ぐことは難しいのだという。確実なのは、爆発してから身近に放射性物質が到達するまでに避難することだ。
「例えば、東京なら、単純に、福島─東京間約200キロを風速で計算して、時間を測ります」(上澤氏)
もし、南西方面に風速4メートルであれば、わずか約14時間で到達する。
「とはいえ、仮に逃げのびたとしても、汚染の程度によっては、いつ東京に戻れるかわかりません」(同)
人間に牙をむいた放射能は、まさに「死の灰」なのだ。 (本誌・神田知子)
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- 2011/03/31(木) 14:27:40|
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