未だに、「原発事故なんか、たいしたことはない」とお考えの方が多いのに驚きます。そういう人に説明する必要を感じたので、以下にまとめておきました。
私が事態を憂慮している理由は、以下の三点です。
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(1)放射能が健康に与える被害は、放射性物質が拡散しても変わらない。
(2)燃料棒は冷却し続けない限り、暴走する。
(3)現在対応している人々は、正常な言語を用いていない。
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この三点から、私は非常に恐ろしい事態が生じると恐れています。
(1) 第一点は放射能の健康に与える被害に関してです。
(1-1)放射性物質が人に与える被害は、拡散しても変わらない、と考えるべきなのです。
http://ameblo.jp/anmintei/entry-10831487863.htmlで詳しく説明しましたが、放射線から病気になるのは、放射線が遺伝子に当たってそこを壊してしまうからです。これには「安全な下限」というものはありません。たとえば、次の3つの場合を考えてみましょう。
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(1)1人に1シーベルトの放射線が当たった場合
(2)1000人に1ミリシーベルトの放射線が当たった場合
(3)百万人に1マイクロシーベルトの放射線が当たった場合
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当たり前のことですが、いずれの場合も、
破壊される遺伝子の数は同じです。遺伝子を破壊された細胞が大人しく死んでくれれば問題ないのですが、細胞は遺伝子を無理にでも修復して生き延びようとします。運が悪いと細胞が変な修復をしてしまい、それが癌細胞になります。ですから、破壊された遺伝子から癌死などが生じる確率もだいたい同じです。つまり放射能が拡散して薄まっても、
被害の確率が下がるだけで、被害の総数は変わらないのです。少なくとも、遺伝子に対する被害は厳密に同等です。
この場合、どんなに一人当たりの放射線被曝量が少なくとも、人数が多くなれば被害は生じます。それゆえ人間が放射線の悪影響を防ごうと考えて行動する場合、
「ある程度以下なら安全と考えてはならない」
というのが科学的に合理的な行動基準です。実際、ICRP(国際放射線防護委員会)の2007年の勧告も、この立場を維持しています。詳細は、
http://ameblo.jp/anmintei/entry-10832471175.htmlを御覧ください。これは保守的な基準ですが、放射能の長期的影響がわからない以上、この基準で判断するのが合理的なのです。
(1-2)この基準を採用すると、原発から離れて放射性物質の濃度が下がっても、全然、安心できません。なぜなら、拡散して濃度が下がっても、ただ広がるだけですから、被害に合う人の数が増えてしまうからです。宝くじ一枚一枚の確率が下がっても、発行枚数が増えたら、当たりの金額が同じなのとまったく同じ原理で、放射性物質は拡散しても、まったく安全にならないのです。誰が当たったかが、わからなくなるだけです。首都圏に薄い放射性物質が広がると、三千万人が宝くじを買わされるので、被害は拡大します。また、子供の宝くじは当たり率が大人よりも遥かに高いのです。
「健康に影響はない水準です」
というのは、
「健康に影響が出てもバレない水準です」
の意味です。
(1-3)これは、生態系についても同じことが適用されます。たとえば、海に落ちた放射能で汚染された水は、拡散してもダメなのです。
(1-4)被曝には、外部被曝と内部被曝とがあります。身体の外にある放射性物質から出てくる放射線を浴びるのが外部被曝で、この場合は離れれば良いのです。しかし、身体の内部に放射性物質を取り込んでしまった場合、逃げようがありません。身体は至近距離から放射線を浴び続けます。
(1-5)公衆の健康に関する問題は、内部被曝が問題です。ごくわずかの放射性物質を、鼻や口や傷口から取り込むだけで、長期にわたって放射線を浴び続けてしまうことになれば、長期的には身体に悪影響があります。
(1-6)自然に存在する放射性物質からも、我々は外部被曝や内部被曝を受けており、健康に悪影響を生じています。それ以外の人工放射性物質から余計な放射線を浴びるのは、たとえ微量でも、余計な死の宝くじを買わされることになります。
(2)第二は、燃料棒の状態です。
(2-1)原子炉の炉心は、運転時の1%くらいの発熱を何年も何十年も継続します。福島第一発電所には、3機の原子炉が使っていた核燃料(千本以上)のほか、6機の原子炉が溜め込んだ、一万本の使用済み核燃料があります。100万キロワットの原発は、効率が悪くて三割しか電気になりませんので、300万キロワット相当の熱量を出します。稼働中の三つの原子炉の合計で600万キロワットの熱量を、千本程度の燃料棒で出していました。その1%は6万キロワットで、一本あたり、ざっと60キロワットくらいあるわけです。ということは、60キロワット×1万本=60万キロワットというオーダーになります。計算はいい加減ですが、だいたいの桁数としてはあっているはずです。
こんなすさまじいものを、マッチポンプでいつまでも冷やし続けるのは無理です。使用済みといっても、未使用のウランや生成されたプルトニウムがたっぷり入っているので、持っているエネルギーはさほど変わりません。
(2-2)ですから、冷却系を回復しない限りは、原発は落ち着きません。しかし、原子炉のような複雑なシステムが、地震と津波と水素爆発でやられたのでは、どう考えても復旧は困難です。
(2-3)その上、タービン室周辺は高濃度の放射性物質を含む水で汚染されてしまい、人が近づけないので、ポンプなどの修理も困難です。
(2-4)以上のことから、いずれかひとつの原子炉あるいは使用済燃料プールが、再臨界などの事態になる可能性は排除できません。そうなると、放射能濃度が急激に上昇するため、すべての原子炉に接近できなくなります。できなくなったら、すべての燃料棒・使用済み燃料棒が加熱して暴走します。
(2-5)菅首相が25日の会見で「悪化を防ぐという形で対応しているが、予断を許す状況にはなっていない」と言いましたが、これは、そういう事態が起きないと保証できない状態だ、という意味だと私は解釈しました。
(3) 第三に、原子力安全欺瞞言語を恐れるからです。これは、テレビをご覧になっていただければわかりますが、みんな、きわめて欺瞞的な言葉を使います。
(3-1)彼らは、
「事故」を「事象」と言います。
「爆発」を「爆発的事象」と言います。
「危険性」を「安全性」と言います。
「健康に被害があっても原発のせいだとバレません」を「健康に影響はありません」と言います。
こういう欺瞞的な言葉を使っていると、頭の作動が狂ってきて、マトモな思考ができなくなります。原子力関係者はほぼ全員、この異常な言語で思考するので、あたまが作動しなくなっていると私は考えます。みんなウソツキであると言わざるを得ないのですが、ウソツキにこんな深刻な事態を収拾できるとは思えません。
(3-2)なぜ彼らがウソツキになったかというと、原子力の利用が正気の沙汰ではなないからです。使用済み核燃料のなかに含まれるプルトニウムは、極微量で人を殺す危険な物質ですが、その半減期は2万6千年です。数万年にわたって強い毒性を持つ物質を創りだして、それを「安全に管理」するのは不可能です。古くなった原子炉を廃炉にしようとしても、原子炉も格納容器もパイプも、放射線を浴び続けて放射性物質となっていますから、処理をしようにも容易に近づけません。こんなものを作り出しながら、電気を取り出して、それで楽しく暮らす、というのは正気の沙汰ではありません。それを、「原子力は今後も、安定的かつクリーンなエネルギー源」(国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長)などと言わないと、原子力は使えません。それゆえ、原子力は存在そのものが、ウソツキを産み出してしまうのです。
(3-3)事故が起こったときには、こういうウソツキに対応してもらうしかありません。それはとんでもなく恐ろしいことです。
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- 2011/03/28(月) 10:50:26|
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原発関連のテレビ・新聞を見る前には、毎日必ず読ませていただいております。
今の日本のマスコミの仕事はある方向に思考を誘導する事のようですので。
「嘘も何回か聞いてると真実になる。」とMichaelも言っていました。
私の周りはヨウ素131 8日で安心?と思っているみたいですが、半減期×10で はじめて安心ではないですか?
全く恐ろしい湯沸器ですね。
吹っ飛ぶのが既得権益の建屋なら喜ばしい事なのですが。
- 2011/03/29(火) 00:08:21 |
- URL |
- 向日葵 #79D/WHSg
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