下の記事は22日のものでもはや旧聞に属するが、重要なことだと思うので論評しておきたい。新たに内閣官房参与に任命されたのは、
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有冨正憲東工大教授(同大原子炉工学研究所長)(63)、
斉藤正樹東工大教授(62)
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の二人である。同研究所のHPで見たところ、有冨教授の専門は、
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社会的受容性の向上を目指し、信頼性の高い次世代の原子力エネルギーシステムの構築に資する研究と、その基盤となる学問の体系化を図るために気液二相流の流動・伝熱特性に関する実験的、解析的な研究を中心とする基礎研究を行っている。
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というものであった。現在主流の大型原子炉は、放っておくと暴走する危険なシステムなので、中小型原発を「未来型」と言っているようである。しかし、本当に関心があるのは気液二相流(つまり気体と液体との混合)の流動・熱伝導のように思える。
一方、斉藤教授は、
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21世紀における人類の生存基盤を脅かす地球規模の人類共通の危機(エネルギー危機、地球環境危機、水・食糧危機、生命・医療危機等)に対し、「地球とその家族をどう護るか?」を原子力の科学技術を基にして、その戦略を科学する。さらに、新しい未来型原子力が未来の文明(未来の人間社会や地球環境、さらに人類の宇宙への進出等)に対してどう貢献するかを科学する。
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であった。具体的テーマを見ると、
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1. 核拡散抵抗性の高い原子炉システムの研究(平和と持続的発展を目指して)
2. 人間社会や地球環境と調和する原子力システム(放射能消滅を目指して)
3. 医療用超ミニ原子炉システムの研究(医療への応用)
4. 未来の宇宙開発を支える宇宙用原子力システムの研究(宇宙開発への応用)
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というものである。誠に結構なテーマであるが、軍事転用可能なプルトニウムが出ない「平和利用」専用の原子炉という1以外は、実現性が乏しいように私は感じる。特に、4は怖い。原子力ロケットが、打ち上げに失敗したらどうなるというのであろう。
いずれにせよ、二人とも、「より安全・安心な原子力」という方向性の基礎的な研究をしている。こんな人びとを、この非常時に官邸に呼んできたところで、おそらく大した役には立たないと私は思う。
役に立つのは、過去の原子力重大事故に精通している人で、以前から「日本でもこういう事故が起きる」と警告してきた人々である。東京工業大学の原子炉工学研究所の研究室一覧を見てみたが、そんな研究をしている人はいない。なぜそんなことになるのか、というと、原子炉重大事故に関心を持つような人は、学会でつまはじきにされるからだと私は考える。たとえば
日本原子力学会の和文雑誌の論文タイトルを見ても、そういう感じの論文は見当たらない。事故のことを「異常事象」と言ったりして、事態を糊塗する論文が関の山である。
そういうわけであるから、東電や原子力危険・隠蔽院が信頼できないからといって、「ちゃんとした学者」を呼んできても無駄である。結局のところ彼らは、原子力安全欺瞞言語に習熟した人びとだからである。そういう言語を使っていると、脳のニューロンの接続がおかしくなって、まともな言語を使えなくなるのである。「事故」と言おうとしても無意識のうちに「事象」と言ってしまうくらいでないと、この業界では学者としてやっていけないのだと思う。
もし、官邸がいま本当に役に立つ人を必要としているのであれば、京大の原子炉実験所の「熊取六人組」のような、原子力の推進に反対しつづけて、出世できなかった人を呼んでくるしかない。彼らを呼んできて、原子力安全欺瞞言語を話す連中と、両方の意見を聞き、場合によっては論争させて、それを菅直人首相が見ていれば良いのである。どちらが正しいか、彼が決めて、それにしたがって行動すれば良い。
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官邸肥大化、参与が14人…組織も増殖
巨大地震
東日本巨大地震を受け、菅首相を取り囲む組織は増殖、肥大化する一方だ。
「既存の省庁の縦割りで物事が全く進まず、官邸が仕切るしかない」というのが首相周辺の説明だが、民主党側の組織も合わせると、相当な数が増えた。
地震直後に発足させた緊急災害対策本部、原子力災害対策本部はいずれも首相が本部長。17日には緊急対策本部の下に「被災者生活支援特別対策本部」、22日には同対策本部を各府省次官らが支える「被災者生活支援各府省連絡会議」が発足。このほか、13日には「電力需給緊急対策本部」、15日には東京電力と連携するための「福島原子力発電所事故対策統合本部」も発足。「この混乱時にとても機能的に動いているとは言い難い」(民主党筋)との指摘も出ている。
首相のブレーン的な役割を担う内閣官房参与の任命も相次いでいる。地震後に5人が追加され、態勢は総勢14人に膨張した。
首相は地震発生後、放射線、危機管理、情報通信の専門家を参与に迎え、22日には原子炉工学を専門とする2人を任命。2人は首相の母校・東工大の教授だ。
東京電力や経済産業省原子力安全・保安院に原子力の専門家がいるにもかかわらず、外から放射線や原子炉工学に詳しい学者らを次々参与に任命したのは、「これまでの経緯で、首相が東電や保安院に対する信頼を失ったため」(内閣府幹部)との見方が強い。
民主党内からは「首相が表に出ず、側近ばかり使って危機をしのごうとするのは、余裕のなさの表れだ。リーダーシップを持って官僚機構を使いこなし、民間と連携してオールジャパンで対策に取り組まなければこの危機は乗り越えられない」(中堅議員)との不満の声が出ている。
(2011年3月23日22時25分 読売新聞)
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- 2011/03/26(土) 22:12:28|
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