こないだ説明しがゴフマン博士の考え方は、「線形しきい値なし仮説(LET)」という名前が付いている。それについて、ICRP(国際放射線防護委員会)の2007年の勧告について、わかりやすい説明が出ている。
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放射線防護におけるICRP新勧告案の動向とその課題
関係法令等検討小委員会
自治医科大学RIセンター 菊地 透
2-2 低線量の健康影響
低線量放射線におけるヒトの健康影響においては,確定的影響は起きない.低線量被曝において起こる可能性は,確率的影響である.発癌など確率的影響は,環境影響との複合影響と考えられ,線量と線量率が低くなるほど,発癌の誘発リスクは小さくなる.しかし,低線量における発癌リスク評価の基礎となっている日本の原爆生存者に対する疫学調査からは,低LET放射線に関して約50~100mGy以下での過剰リスクの有無を証明することは期待できない.
一方,分子遺伝学から疫学研究を補足すると,ヒトおよび実験動物の発癌の機序は細胞核染色体中のDNAが標的であることが証拠付けられている.照射を受けた細胞にはDNA損傷を修復する能力があり,変異や発癌リスクが軽減されることを示す証拠は数多く発表されている.
しかしながら,放射線照射によるDNA損傷は複雑であり,損傷を正確に修復することは非常に難し
い.これらの結果をまとめると,細胞中のDNA損傷修復作用は放射線による発癌リスクを相当に軽減するという説は大いに考えられるが,現在までの知識では低線量における発癌リスクは,その修復機能によってすべて消失すると考えるまでには至っていない.
結論としてICRPは,確率的影響のしきい線量は存在しないとする仮説を支持し,低線量・低線量率の被曝においても,放射線防護上の確率的影響は線量とともに増加すると考えている.
2-3 しきい値なしの問題
発癌等の確率的影響に対して,「しきい値なし」の考え方は,線量に比例し線量がゼロになるまで成り立つことになる.このしきい値なしの直線仮説(LNT: thelinear non-threshold theory)は,高線量・高線量率の研究に基づいている.このLNT仮説を,低線量・低線量率に導入することへの反論は多く,ICRPがしきい値なしのLNT仮説を支持し続けることへの批判は根強い.
そのためしきい値なし問題は,最近の世界中の関心事であるが,残念ながらアポトーシスや免疫適応応
答などによって,直ちに具体的なしきい値の根拠を示すまでには達していない.しかし,ICRPがLNT仮説を厳格に適用することで,ごく微量の被曝に対しても,癌等の健康影響が起こるとして過剰なまでに放射線に対する不要な恐怖感を与え,結果的に有限な資源の浪費と大きな経済的負担が増大するとの反省もある.
このような状況において低線量の放射線影響研究に対する期待は大きいが,現在のところ,LNT仮説は
低線量の放射線影響の研究が飛躍的な発展を遂げない限り,数年の間には解明できない問題と考える.
クラーク自身も放射線発癌は,癌にまで至る一連のプロセスは単一細胞のDNAから始まり,自然放射線レベルをわずかに超える程度の線量では,DNA修復メカニズムは変動しそうにないので,しきい値の存在はないと考えている.LNT仮説は放射線に対するリスクを安全側に見積もるものであり,放射線防護が強化される方向になるので,ICRPは,これまで通り確かなしきい値の存在が科学的根拠で証明できない限り,現在の方向性維持を望んでいる.また,確率的影響にしきい値が存在することは,防護がさらに複雑となり計画的な防護が困難となるので歓迎していない.
http://nv-med.mtpro.jp/jsrt/pdf/2002/58_3/330.pdf
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- 2011/03/16(水) 17:50:32|
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