cry という自動詞には色々な意味がある。e-プログレッシブ英和中辞典には次のように出ている。
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[動](cried, ~・ing)(自)[I([副])]
1 〈人が〉(通例涙を流しながら)叫び声をあげる,叫ぶ,泣く,嘆く.
2 〈人が〉(…を求めて)(大声で)呼ぶ;叫ぶ,どなる,わめく((out/for ...))
3 〈鳥・獣が〉鳴く,鳴き叫ぶ;〈犬が〉ほえる.
4 〈ブリキなどが〉(曲げられて)音を立てる.
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このうちどれが当てはまるかを考えていて、最初は「叫ぶ」だろうと思っていた。理不尽や不正義を見たときに、黙っていないで声を上げろ、ということだと解釈していたのだ。しかし音楽を聞きながら、なんとなく、本当にそうだろうか、という違和感を感じていた。それで今回、歌詞をじっくり見て、「叫ぶ」ではなく「泣く」だと確信した。この曲は、世界を変えるために泣け、と言っているのだ。そもそもシングルCDのジャケットが泣いてる絵なのだから、「泣く」に決まっている。
この曲は、
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Somebody shakes when the wind blows
あの風が吹くと、誰かが震える。
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という歌詞で始まる。最初に考えねばならないのは、「the wind 風」とは何かである。"a" ではなく "the" が付いているということは、何か特定の風をイメージしているのである。この単語はもう一度でて来る。それは、
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Faith is found in the winds
信仰はあの風の中に見出される。
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という箇所だ。ここでも "the" がついているから、同じ「あの」風である。「あの風」とは信仰が見出される場所なのである。マイケルの信仰とは何か。それはキリスト教的な人格的絶対神に対するものではなく、自らの魂・自らの生きる力への信仰である。
この最初の一行の表面的な意味は、
着るものがなく、飢えている人が世の中にはいて、彼らは風が吹くと寒くて震える、
というものである。しかし風が「自らの生きる力に対する信仰が見出される場所」であるなら、この解釈は退けられる。この場合の風は、魂のが起こす生きるための風である。そういう風に吹かれると、いわゆる魂の死んだ人は、恐れをなす。なぜなら、生きるための力を信じ、そこから息吹を吹き出させる人を見ることは、魂の死んでいるゾンビには恐怖だからである。それゆえ、この行は、
生命の風が吹くとゾンビは震える
という意味になる。なお、後半の"the winds"が複数になっているのは、最初の連が単数の "somebody"に関するものであるのに対して、後半の方は複数の "faces" に関するものだからであろう。
さて、そういうゾンビには、真の友だちがいない。「友達付き合い」があるだけである。それゆえ、
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Somebody's missing a friend,
誰か、友だちのいない者がいる。
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ということになる。しかもその状態はいつまで続くか見当がつかない。
こういう状態の人は、「自分には本当の友だちがいない」という真実に目を向けることが出来ない。次の連はそのことを歌っている。
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Stories buried and untold
Someone is hiding the truth, hold on
When will this mystery unfold
話されず、葬られる話。
誰かが真実を隠蔽している。やめないで!
この謎はいつ解明されるのか。
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自分自身の真実の姿を見ないために、目を覆い、盲た者となる。こういう人にとって、世界は偽りからできている。この偽りの世界から抜け出すには、どうすれば良いのか。それには目を開ければ良いのである。そうして自らの真実の姿に直面して、悲しみの涙を流す必要がある。そしてそれは同時に、本当の世界に触れた悦びの涙となる。しかし、その涙を流すには、勇気が必要であり、そこに踏み出すことができるかどうか、甚だ難しい。
なお、Hold on! というのはマイケルが良く入れる合いの手で「やめないで!」と訳しておいたが、ここでの意味は「目を背けないで!」というような意味だと思う。これは聴く者に向かっての発声であり、歌詞の地の文とは関係がない。
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And will the sun ever shine
In the blind man's eyes when he cries?
盲た者が涙を流すとき、
その者の目に太陽は果たして輝くのか。
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しかしもし、涙を流し、目を開くなら世界を変えることができる。本当の世界=天に出会うことができる。そのためには恐怖心を乗り越える勇気が必要であるが、それを一人で乗り越えることは不可能に近く、勇気ある人の助けが必要である。
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You can change the world (I can't do it by myself)
You can touch the sky (Gonna take somebody's help)
あなたは世界を変えることができる。(私一人ではできない。)
あなたは天に届くことができる。(誰かの助けがいる。)
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そうやって目を開いたなら、あなたはもはや「普通の人」ではない。「選ばれし者」である。選ばれし者は、奇跡を起こすことができる。その奇跡とは、他の人に寄り添い、魂を開いて、共に喜悦の涙を流す、ということである。「印 sign」というのは、聖書の概念で「 神力[神威]のしるし,お告げ,奇跡」というような意味である。
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You're the chosen one (I'm gonna need some kind of sign)
If we all cry at the same time tonight
あなたは選ばれし者。(私は何らかの印を必要とする。)
もし今夜、我々が同時に涙を流すなら。
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(つづく)
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2011/01/28(金) 20:00:00 |
ブログ
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| コメント:3
そういう意味だったんですね。
紹介されていたアリス・ミラーの本にもありましたが、付き添ってくれる人が一人でもいれば、本当のことに向き合えるということなんですね。
あのPV、マイケルは出てこないけれどいいPVだと思いましたし、好きです。(以前、そのことも書かれていましたね。)
深い意味にやはり感動します。
2011/01/28(金) 20:56:04 |
URL |
☆まみ☆ #79D/WHSg
[ 編集 ]
「生命の風が吹くとゾンビは震える」
というのはおもしろい解釈ですね。
まさか震えているのがゾンビだとは。
この歌は雰囲気はわかるけれども、よく読むとわけのわからない歌詞だなとずっと思っていたのですが、最初の句をそのように解釈すると面白いようにその後の歌詞の意味がわかってきます。
2011/01/29(土) 01:27:13 |
URL |
sancho #79D/WHSg
[ 編集 ]
先生!「印」の意味 ありがとうございますって言っても、あまり はっきり解りません(泣)
先生は彼を代弁してるようで、的確ですね
でも、私は盲目者=ゾンビには発想届きませんでした。スリラーでも、バイオハザードでも そうだけど 魂が死んだ、ただ生きてるだけの人間は生きる資格無しとマイケルが言ってるみたい そのゾンビたちの無関心によって今の世界が悪い奴らの思うようになって 今 まさに、きずかないとヤバイよみんな! みたいな感じかな?
それは、自分の悪いところを認め 他人を敬える心を持つこと 政治に目を向ける事・・・
でも、目覚める対象は全ての人たちの事ではないのかな?それに この詩はR・ケリーさん作ですよね?いろいろ 考えるとまとまらなくなりますが、その「風」が出来ることは一人では無理で「彼」を頼り一緒でなければ 信じる世界は到底やって来ないとも取れます。
どうやって伝えて どうやって受け止めればいいのかな その「風」はどうなってしまうの
今、巷でアセンションとか宇宙とか囁かれてますが 神話、絵空事みたいでピンと来ません・・・
とにかく マイケルの和訳は奥が深すぎ(泣)
2011/01/30(日) 04:34:40 |
URL |
HIRO #79D/WHSg
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