マイケル・ジャクソンの思想

佐藤亜有子『花々の墓標』

http://ja.wikipedia.org/wiki/佐藤亜有子

佐藤 亜有子(さとう あゆこ、本名・平 亜有子〈たいら あゆこ〉[1]、1969年10月19日 - 2013年1月5日)は、日本の作家。1969年10月19日、岩手県出身。1989年、岩手県立盛岡第一高等学校卒業後、1994年、東京大学文学部仏文科卒業。

 この「小説」は、自伝というか、カウンセリングを受ける過程で作家が書いた告白である。この作品を書いた段階では、治癒に向けて進んでいたはずだが、下記の読売新聞の記事を見ると、そう簡単にはいかなかったようだ。

 彼女の家では、大学の医学系の研究者である父親が、姉に長期にわたる徹底的な性的虐待を加え、次女の著者にも、長期的な性的虐待を加えた。妹は直接やられなかったらしいが、この二人が遊びで妹に性的虐待を加えた。母親の証言によれば、彼女も子供の頃に近所の悪童どもに輪姦され、実兄に二度、虐待されているらしい。

 この結果、長女は音大に入学したあたりから重篤な精神疾患を発症し、床ずれで尻の肉が腐っていたのに自分でも気づかない、というような事態になった。次女の筆者は、虐待による屈辱をバネに、勉強もスポーツもがんばって、見事に

東京大学

に合格した。

「たぶん当時のわたしには、勉強だけがほかのすべてを忘れられる、唯一の逃げ場だったのだと思う。」

東大や京大といった難関校に合格するには、このくらいの追い込まれ具合がないと難しいのだと私は思う。それは私自身に照らしてもそうなのだ。

さて、東大仏文を卒業して陰鬱な小説を書いたので、大江健三郎と重ねあわせて持ち上げられた。

 しかし在学中に知り合った四歳年上の司法試験を目指して合格した優しくて辛抱強い男性に支えられていたのに、具合がますます悪くなった。ここでよせばいいのに、男が結婚しよう、というようなことを言い出したため、強烈な

タタミ女

ぶりを発揮してしまう。具体的には、ひどい浮気をしてしまい、しかもそれを事細かく彼に報告して、

これでいい。わたしは彼を裏切ったのだから、見捨てられるのは当たり前。彼には私なんかより、ちゃんと彼と結婚して、彼を支えて、彼に子供を生んであげられる女のほうがふさわしい。だから終わりで、いいのだ

と自分に言い聞かせておじゃんにしてしまった。

 ここから先は、どうしようもない性的遍歴を繰り返して精神状態の崩壊の坂道を転がり落ちて、そのおかげで作家として着々と成功する、という例のパターンに入ってしまう。そしてマシな精神科医に当って、カウンセリングやグループ療法によってようやく底を打ったあたりでこの本を書いた。

どうやらそこで後に夫となる人と出逢い、人生が好転するように見えたが、そうはいかず、睡眠薬と酒の摂取による急性中毒症状で急逝してしまった。件の精神科医の処方した薬を酒と一緒に飲んで死んだのであれば、この医者は「マシ」とはいえないだろう。

この本は、さすがに作家だけあって、実に見事に書かれていて、その虐待の恐ろしさと、それが惹き起こす悲劇を克明に、しかし美しく描いている。

だが、読んでいて、どうも釈然としない部分が残った。何が残ったのかというと、どうも何か奥歯に挟まった感が抜けないのである。現実の世界では、母親が上に述べたような「告白」をして、それに衝撃を受けた姉と三人で、涙を流してしっかり抱き合ったりする。そして作家は、次のように言う。(80頁)

 母はたぶん、長女である姉と同時に、かつての自分が救えなかった自分自身を、すくってやりたかったのだと思う。まるで理不尽な性暴力に巻き込まれて、いったいなせと心の中で叫びながら、決して答の出ない苦しみを、ずっと抱えてきた自分。そればかりか、娘たちを自分と似た目に遭わせてしまった母の苦しみがどれほど深いものなのか、わたしには、ほとんど想像さえできない。

こうしてアッサリと母親を許してしまったわけである。

しかし、先ほどの母親の告白のあと帰りの車のなかで、父親に強姦されるというフラッシュバックに襲われて、それがきっかけとなって、本格的な精神の崩壊へと向かってしまう。彼女はこのフラッシュバックを転機と見ているのだがそれは誤解に見える。母親の「告白」の直後にこのフラッシュバックが起きたのであるから、転機は「告白」の方である。もし母親との感情的な交流と許しとが、真実に基づくものならば、それが彼女の崩壊の引き金を引く、というのが私には信じられないのである。

また、彼女の描く悪夢のなかでは、まったく違う構図が浮かんでいる。(41頁)

 現にわたしは、母=父の隠れた共犯者という構図を裏付けるような、象徴的な悪夢を見ている。その内容は以下のとおりだ。二階の両親の寝室で、なんだか奇妙でとても不安な気配がするので、わたしは内心おののきながらも、にかいに通じる階段をおそるおそる上っていく。両親の寝室のドアは開いていて、わたしがそこで目にしたのは、父が姉―――それともあれは、もう一人のわたしだったろうか―――とセックスしていて、ベッドのそばに立っていた母がその成り行きを見守っている、そんな場面だった。愕然として、廊下で息を潜めたままで身動きできないわたしを見つけて、母は、なにしてるの、亜有子も早くここに来て、お父さんとセックスしなさいと厳しい口調で命令した。

しかし、わざわざこの悪夢を書いたあとに続けて、彼女はこう書いている。

 もちろんそれは、わたし自身の悪夢でしかない。現実の母は、自分の娘を虐待していた父に向かって、こちらの胸が痛くなるほど激しい怒りをぶつけつづけた。先の悪夢は、かつてのわたしが母に抱いていた複雑なイメージの反映だったと思うが、今は違う。できることならお母さん、あまり自分を責めないで。そう何度でも母に言いたい。

わたしは、このあたりに彼女が隠蔽してしまって、抜け出せなかった罠の正体が隠されている気がするのである。直截にいえば、
母親の「告白」は完全にホラ
ではないとしても、
娘たちに共犯者扱いされないための嘘
が混じっているのではないか、と疑うのである。そう考えると、彼女の作品とその後の人生の展開は、うまく整合する。


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【記者ノート】愛を書いた 愛を求めた

読売新聞 2013年7月30日
ありし日の佐藤亜有子さん(平さん提供)

 小説『ボディ・レンタル』で知られ、今年1月5日に 急性薬物中毒のため43歳で死去した作家の佐藤亜有子 さんの遺著『ママン愛人(ラマン)』が、河出書房新社から出版された。

 自身が抱える心の傷を、作家は最期まで文学に昇華させようとしていた。 佐藤さんは1969年、岩手県生まれ。東大仏文科卒業後、96年に『ボディ・レンタル』が文芸賞優秀作となった。女子大生が自分の体をレンタルし、客に応じてモノになる 姿を描く。

 「心」と「体」を切り離し、主体的に生き、愛することはできるのか――。翌97年に は、被害者の二重生活が注目された東電OL殺人事件が起きる。同作の主題は、人間の生 き方が自由になった時代の光と影をも映していた。同年に「葡萄」で芥川賞候補となった が、次第に執筆から遠ざかる。
佐藤さんは実は、子供の頃に心が傷つけられ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を 抱えていた。夫の平明典さん(52)とは、治療先の病院で10年前に知り合った。平さんは外国で人間が大量に虐殺される現場を目撃した体験があり、同じ病を抱えていた。

「非常に聡明で正直。一緒にいて助けられた」。キノコ狩りや海外旅行を楽しんだ。一方、 つきあい始めた頃はジンを簡単に一本空けるほど飲んだ。飲酒癖はやまず、2007年に は妊娠したものの、心の傷の連鎖を恐れ、産まなかった。

 『ママン愛人』はその後、書き始められた。主人公は、息子を亡くした大学教員だ。飲酒と薬剤におぼれる彼女のもとへ、息子に似た学生が現れ、不倫関係となる。

<ぼくは男です。恋しい女にしたいことをする>

 産まなかった子への愛情を、代わりに小説の中で学生に注いだなどと、同作を読みたくない。どのような傷を抱えても、人間は愛によって変わる。自分を変えるような愛を強く求めずにはいられないのだ。仏文学のような流麗な言葉で、自分の宿命である愛の問題と 向き合った。体調が悪い中、佐藤さんは少しずつ書き継いだという。最期まで作家であろうとしたのだ。

 この一年の佐藤さんはアルコール依存が進み、リクライニングチェアで寝起きしていた。 体力低下に加え、処方された睡眠薬と酒の摂取が重なり急性中毒症状を起こした。「......ありがとうって言いたい」。今の心境を語る平さんは、新刊をまだ読むことができない。(文化部 待田晋哉)

http://www.osaka-ikuseikai.or.jp/titititi/titititi/titititi1462.pdf
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