※この記事は 2013/11/22(金) にアップしたもので、Kindle 出版は終了しています。
明石書店から、
『ジャパン・イズ・バック:安倍政権にみる近代日本「立場主義」の矛盾』
http://www.akashi.co.jp/book/b166272.html
として出版されています。
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http://www.amazon.co.jp/dp/B00GTB3WEK/ref=cm_sw_r_tw_dp_XWRJsb1WA7K8N作家・脚本家のながたかずひささんのご協力で、本を書き上げて、それを実験的に Kindle 出版することにした。
今すぐに読んで欲しい本だと思うので、ネットで先行出版した。
限定1ヶ月で、読んでくださった方から頂いたコメントでブラッシュアップして、紙媒体でだそう、という趣向である。有益なコメントを頂いた方のお名前やハンドルネームを、紙媒体の謝辞に入れさせていただくので、よろしくお願いしたい。
で、そのイントロを、下記に掲載しておく。
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内容紹介
安倍政権に観る近代日本の政治・経済・文化の矛盾。
「イッポンをトレモロす!」
安倍晋三首相はいったい何をどうしようと企んでいるのか。
日本という国はどこから来てどこへ行くのか。
「東大話法」でお馴染み、知のドン・キホーテ安冨歩教授が、
経済学・歴史学を中心に多方面から鋭く斬り込みます。
眼から鱗がポロリと落ちて、胸のつかえがストンと降りる。
あなたと創る現代日本の解剖書、期間限定で緊急出版!
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【目次】
★プロローグ
●奇跡の一本松
●「トレモロす」
★第一章 政治
■第一節 田中主義
■第二節 小泉改革
■第三節 小沢・鳩山政権
■第四節 安倍政権の支持基盤
■第五節 ピュア自民党と各政党
■第六節 安倍政権の本質とその行く末
■第七節 戦争へと暴走する国家機構
■第八節 嘘
■第九節 コミュニケーションアート
★第二章 経済
■第一節 ヴィジョンなきアベノミクス
■第二章 金融緩和
■第三節 財政政策
■第四節 成長戦略
■第五節 まとめ
★第三章 文化
■第一節 立場主義社会
■第二節 立場主義社会と経済
■第三節 立場主義と靖国神社
■第四節 立場主義とタガメ女
■第五節 福沢の亡霊
■第六節 意志の問題
■第七節 『学問のすゝめ』
■第八節 本当の「強さ」
■第九節 まとめ
★エピローグ
●結び
●映画『先祖になる』
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★プロローグ
●奇跡の一本松
しばらく前、新幹線に乗っていた時のことでした。いつものようにまったく興味のないニュースが、車内の電光掲示板に流れていました。目を開けている限りどうやってもあの表示が見えてしまうのがとても鬱陶しいのですが、目に入るとついつい読んでしまいます。
と、こんな言葉が流れました。
「よみがえった……『奇跡の一本松』」
その瞬間、私は飲みかけのコーヒーを噴き出しそうになりました。
いくらなんでも、この言葉の使い方はおかしい。
あとで調べてみますと、その日の読売新聞にこんな記事が出ていました。(縦書きで読みやすくするため、原文の数字を漢数字に替えています。以下ウェブ引用などでも同じ処理)
よみがえった……「奇跡の一本松」復元作業
東日本大震災の津波に襲われた松原の中でたった一本だけ残った後、枯死した岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」の復元作業が六日行われ、半年ぶりに全体の姿がよみがえった。
大津波に耐え、復興のシンボルとして被災者らに慕われた一本松は、枯死が確認されたが、保存のため昨年九月に伐採された。高さ約二七メートル。根元から三分割され、それぞれ防腐処理などが行われた。六日午前、最上部の枝葉がついた部分のレプリカがクレーンで据え付けられた。
作業を見守った市民団体「高田松原を守る会」の鈴木善久会長(六八)は、「皆さんの温かい気持ちでここまできた。住宅の再建が進まないなど復興は遅れているが、再び被災者を元気づけてほしい」と話した。
今後、周辺を整備して献花台などを設ける。市は事業費一億五〇〇〇万円を募金で賄う計画で、二月末現在、八七七五万円が集まっている。
(二〇一三年三月六日一二時三九分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130306-OYT1T00609.htm
枯死? 防腐処理? レプリカ? クレーン?
あまりに「よみがえった」という言葉に似つかわしくない単語の羅列に、陸前高田市のホームページを見てみました。すると、「奇跡の一本松保存プロジェクト」という項目にその内容が詳細に示されています。それによれば、
保存方針
一 一本松の各部分は可能な限り残し、屋外展示に耐えうる保存処理を実施する。上部枝・葉部分は型取り後レプリカを作製する。
二 自立構造体とし、主構造体は高強度が期待できる炭素繊維強化樹脂複合材料(CFRP)を使用する。
三 自立構造体のため根部分はコンクリート基礎とし、根は別途保存処理を行い将来に向け保存する。
幹の写真を見てみますとくり抜かれて空洞になっています。防腐処理というのですから、このがらんどうの幹を加工したのでしょう。
陸前高田市のホームページでは、この松を「東日本大震災の大津波に耐えた高田松原の『奇跡の一本松』」としています。
しかしこの言葉の使い方が、私にはそもそも少しおかしいのではないかと思われます。もちろん、七万本の中から一本だけ残った、という意味では奇跡的です。
とはいえ、この樹が残った理由は、奇跡でもなんでもないのです。保存のための資金集めのポスターを見ると、一本松の右下に何やら壊れた鉄筋コンクリートの建物が見えます。これはユースホステルですが、奇跡の一本松が守られたのは、この建物が津波を防いだからです。
たまたま前に鉄筋コンクリートの建物があって津波を奇跡的に生き延びたこの松は、確かにとても運の良い松でした。ですから「幸運な一本松」と呼ぶのは正当です。「幸運な一本松」にあやかって、私も幸運を手にしたい、というなら話はわかります。
ですが、「奇跡的に大津波に耐えた一本松」というのは、既に言葉と考え方がおかしいのです。それゆえ、これを復興のために苦境を耐え忍ぶためのシンボルとするのは、間違いです。奇跡の一本松保存プロジェクトは、この段階から間違っています。
この一本松の生還劇において、最大の功労者は、誰でしょうか。踏切で倒れた子供を救うために命を落とした鉄道員がいたとしましょう。そのとき救われた子供を「奇跡の子」とかいって持ち上げる人がいるでしょうか。明らかに顕彰されるべきは、子供を救った鉄道員です。
ということは、「奇跡の一本松」で顕彰されるべきは、身を挺して崩壊しながらも津波を防いだユースホステルの建物です。建物を顕彰しても仕方ありませんので、これを設計・施工した人々を顕彰すればよく、彼らの銅像でも建てるというなら筋が通っています。
またこの一本松は、奇跡的に津波を生き延びたのですが、大地震による地盤沈下で土壌に海水がしみ込み、塩分過多によって衰弱、枯死しました。さすがの強運もここまでだったのです。そうなればアッパレと言って、心を込めてこの樹を伐り、材木としてモニュメントを建てるとか、あるいは、強運のお守りをつくって販売し、その売上で被災者の救援に回す、とかいうのが、普通の考えではないでしょうか。
寄付の呼びかけのなかで陸前高田市は、「今後も復興の象徴として後世に受け継ぐために、現在の一本松に人工的な処理を加え、モニュメントとして保存することとなりました」と言っていますが、これは踏切事故を生き延びながら、そのときの怪我が原因で数ヶ月後に命を落とした子供の遺体に人工的な処置を加えて踏切の近くに立てて、踏切の安全な渡り方を訴えるモニュメントとするのと、構造的に同じ発想です。
産経新聞の「おかえり”奇跡の一本松”「忘れさせない」シンボルに」(二〇一三年三月七日)という記事には、
カーボン製の棒が通された幹の上で、特殊樹脂でかたどられた深緑の葉が春風に揺れる。復元された姿は美しいが、枯死してもなお、被災地に立ち続ける松の姿はどこか痛々しい。
同市の「高田松原を守る会」副会長の小山芳弘さん(六一)は「松も辛いだろう。だからこそ恥ずかしくない復興を目指さなければ」と表情を引き締めた。
と書いてありますが、「おかえりなさい」という見出しの記事を書いている産経の記者でさえ、現物を見ると「痛々しい」と感じてしまっているようです。副会長の小山さんが「松も辛いだろう」と言っておられるのも、文字通り受け取るべきでしょう。死んだ樹を立たせるのは、やはりおかしいのです。
それよりおかしいのは「よみがえった」という読売新聞の言葉遣いです。明らかにこの松は枯死したのであり、その幹を繰り抜いて防腐処理したのですから、死んだままです。死んだままの樹をおっ立てて、「よみがえる」と呼んではいけません。どこまでやってもそれは、死体を無理やり立たせているだけなのであって、よみがえったのではないからです。ここまで言ってしまえば、奇跡の一本松はフランケンシュタイン(の怪物)やゾンビになってしまいます。
読売の記事によれば、
作業を見守った市民団体「高田松原を守る会」の鈴木善久会長(六八)は、「皆さんの温かい気持ちでここまできた。住宅の再建が進まないなど復興は遅れているが、再び被災者を元気づけてほしい」と話した。
とのことですが、松の死体を見て、果たして被災者は「元気づけ」られたりするのでしょうか。たとえそのように見えたとしても、それはまさに一本松のように中身の抜けた、「カラ元気」ではないでしょうか。
一億五千万円もの寄付金を保存のために集めるという点については、かねてから疑問が出されていますが、当然です。そんなことをするくらいなら、幸運の一本松を材木にして作った開運のお守りや木工品を、チャリティ・オークションに掛けるイベントでもやったほうが、遥かに合理的であり、元気のもとになるのではないでしょうか。
読売新聞のような、フランケンシュタインを良しとするような歪んだ言葉が出てくるのは、やはり何かおかしいのです。何がおかしいのかを考えていて、ふと、思い至りました。
「この奇跡の一本松が、日本社会全体の象徴になっているのではないか」
つまり、日本社会全体が、がらんどうの奇跡の一本松のフランケンシュタイン化している、ということです。
●「トレモロす」
そんなモヤモヤした気持ちを抱えながら、ある日私は淡路島に旅行に行きました。中学生の息子も一緒です。
と、道を歩いていましたら息子が、農家の壁に貼ってある日焼けして色の薄くなった自民党の選挙ポスターを見て突然「ウゲ~!」と一声唸って、
「イッポンをトレモロす!」
と叫んだのです。普段あまりTVを観ない私は一瞬呆気にとられましたが、安倍晋三自民党総裁の選挙コマーシャルのことだと気づいて、爆笑しました。
帰ってからネットで調べてみますと、
安倍氏の台詞は、自民党の衆院選キャッチフレーズ「日本を、取り戻す。」。だが、この「取り戻す」が、どうにも「トリモロス」に聞こえてしまうというツッコミが、ネット掲示板やツイッターで大盛り上がり。
という記事が『週刊朝日』二〇一二年一二月二八日号に出ていたそうです。念のため自民党のホームページで件のCMを観てみました。すると確かに安倍さんが、
「世界をリードする技術力を持ち、豊かな教育を受け、誰もが安心して生活できる。」
と、大変ステキな笑顔で言ったあと、
それが、本来のイッポンの姿です。
トレモロす。(経済を)
トレモロす。(教育を)
トレモロす。(安心を)
イッポンをトレモロす。
ミラサマとともに、総力で。
自民党。
と言っていました。
私はこのコマーシャルを見て、ようやく何かがストーンと腑に落ちた気分になりました。
以前から彼らが使っていた、
「日本を取り戻す」
というスローガン、これが私には「なにをどうしたいのか」サッパリわからなかったのですが、
「イッポンをトレモロす」
という音声になった瞬間、なんだか理解できたような気になったのです。
「そうか!
彼らは日本を取り戻したいのではなく、イッポンをトレモロしたいんだ!」
しかもこうやって言葉にしてみると、「奇跡のイッポン松」と、安倍氏がトレモロそうとしている「イッポン」とが、ピターッと重なり合い、なんだか非常に心がスッキリ、胸がハレバレしたのです。
で、私は、このスッキリ感を多くの方にお伝えしたいと思い、この本を書くことにしました。
……と言いますと、「またそんなおふざけのようなことを!」とお叱りになる方もおられるかもしれませんが、私は至って大真面目です。
人間というものは実に可憐ないきものでして、内心思っていることや考えていることが本人も気づかないうちに、言葉や行動に出てしまうものです。
「日本を取り戻す」
この程度の短いフレーズを、仮にも一国の首相が、しかも何度でもやり直しの効くCM撮影において、多くの人が別な言葉に聞こえるようにしか言えない、そんなことがありえましょうか。
いや、ありえません。
彼は、安倍総裁と自民党は、本当に、心の底から、
「イッポンをトレモロしたい」
のです。
では一体、この、
「イッポン」
とは何物なのでしょうか。またそれ以上に、
「トレモロす」
とはどういう意味の動詞なのでしょうか。
この不思議な言葉を明らかにするために、これから、現在の日本社会を、三つの視点からあらためて考え直してみたいと思います。
一つ目は政治。
日本政治の戦後史を簡単に振り返り、第二次安倍政権成立のおさらいをしてみます。
何が求められて、あるいはどんな訴えが国民の心に響いて、再登板となったのでしょうか。
二つ目は経済。
経済原理から安倍政権の目玉、「アベノミクス」を分析してみたいと思います。
「アベノミクス」とは一体何をしようとして、どういう問題をどう解決しようとしているのか。
三つ目は文化。
私は日本の近代には、「立場主義」という通奏低音が流れている、と考えています。また、福沢諭吉の『学問のすゝめ』に端的に表されている、近代の矛盾を読み解いていきます。
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- 2013/11/22(金) 11:15:07|
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