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マイケル・ジャクソンの思想

「家政婦のミタ」とマイケル・ジャクソンの思想(3)

このドラマのもうひとつの悲劇は、言うまでもなく、阿須田家の悲劇である。

この悲劇もまた、タガメ女あるいは Bilie Jean である結城凪子が、阿須田恵一という格好のカエル男をとっつかまえたところから始まる。どうやって捕まえたかというと、例の「今日は大丈夫」という奴である。その手口で結を妊娠し、おびえる恵一に「堕ろすなら死ぬ」と宣言して結婚したのである。ドラマの中で結は苦しみぬくが、それは母親が死んだからではなく、自分がそういう手段として利用されて生まれてきた、という出自のゆえである。彼女の名前の「結」は恐ろしいことに「家族を結びつける」という意味である。

この恐るべきタガメ女は、腰抜けカエル男が嫌になって逃げそうになるたびに「気合妊娠」を繰り返し、男が三回逃げそうになったので、翔、海斗、希衣と更に三人も生んだ。しかしそれでもあまりにもつらいので、恵一は会社で不倫して、ついに離婚を迫った。これにぶち切れたタガメ女は、恵一に最悪の呪縛を掛けるべく、自殺してみせたのである。

この自殺はおそらく、同時に、父親の結城義之へのあてつけである。この人物は元校長の厳格な父親、という最悪の欺瞞人類であり、結城凪子があのような偽装の鬼となったのは、この父親のせいである。あまりにひどい奴なので、母親はくたびれてとっとと死んでしまった。妹のうららに対するプレッシャーは、凪子のおかげでかなり弱かったのであろう。それでも、人格は半分くらい狂っていて、死ぬほどドジであり、愛想笑いの王者であり、できもしないことを引受けるので、みんなから嫌われている。

こういう情況のところに、ミタさんが乗り込んでくることで、ドラマが始まる。

(つづく)
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  1. 2011/12/22(木) 11:13:23|
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「家政婦のミタ」とマイケル・ジャクソンの思想(2)

このドラマのどこが完璧だというのだろうか。それを説明したい。

このドラマでは二つの悲劇が出遇う。

一つ目は、三田灯の悲劇である。彼女の母親は、完全なタガメ女あるいは Billie Jean であり、心の優しい男をつかまえて、灯を生んだ。しかし疲れきった父親は、灯が川で溺れそうになったのを好機として、溺れて死んだ。この事故は、いわば偽装された自殺だったのである。母親はせっかくのカエル男が死んでしまったので激怒し、その切掛を作った灯を憎んだ。そのために灯は母親に気に入られるためにあらゆる努力をするが、全くの無駄であった。

再婚の相手は、成長した灯に色目を使うような男である。こんな男と結婚するくらいだから、この母親の卑しい心性がわかる。内田春菊の『ファザーファッカー』に描かれているように、こういう男は、恐ろしく危険である。単に色目で済んだのかどうか、疑問であり、灯が、内田氏のような性的虐待を受けていた可能性が高いと私は推測する。

この恐ろしい家庭のなかで、灯にとっての唯一の頼りは、家政婦の晴海さんであった。彼女にもらった最中が、彼女の心に強くしみ込むほどに。そして、あとから生まれた弟にとってのたよりは、灯であった。それゆえ、灯が結婚して家から出ると、弟は死にそうになってしまった。そこでしばしば灯の家を訪れるようになった。

夫は灯の弟を歓迎していたが、弟はやがて灯に関係を迫るようになった。なぜそうなったのであろうか。それはおそらく、灯の家庭もまた、欺瞞と偽装とでできていることに、弟が気付いたからだと思う。その欺瞞性はたとえば、「こどもスターランド」の場面に好く現れている。このしょぼい遊園地でミタがファーストフードのファミリーセットを注文するが、それは阿須田家の子どもたちが食べると、あとで気分が悪くなるようなシロモノなのである。死んだ夫と息子との幻覚がしばしばあらわれるが、それは何か、現実性を欠いた、ステレオタイプの父子である。そしてミタさんが、自分だけしあわせになったら許してくれないだろうね、と話しかけると、二人とも凍りついて返事をしないのである。もし彼らが、本当の愛情で結ばれた家庭であったら、あのようなステレオタイプ性はないはずであり、あんな退屈な遊園地が好きだったりしないであろうし、胸の悪くなるようなファミリーセットにパクついたりしないであろうし、死んでからミタさんを呪縛するようなことはないはずである。

弟が姉に関係を迫ってストーカー行為に及んだのは、せめて姉は本当に幸福でいてほしいと願っていたというのに、それが偽装結婚に過ぎないことを見抜いたために錯乱し、それを破壊するためにであったと考えられる。ミタさんの夫が、弟のそういう行動を知ったら、ストーカーに「やめろ」と言ったって無駄に決まっているのでるあるから、なぜそんなことになるのかを、話を聞かないといけなかった。それは新たな突破口を開いたはずである。しかし彼はそうしないで、「もう来ないでくれ」と言ったのである。それゆえ弟は、完全に絶望し、家に火をつけて、自分も自殺してしまった。

このような恐るべき経験によって三田灯は、ミタさんになった。彼女は笑わなくなったのではない。彼女は、最初から、笑ってなどいないのだ。特別編でミタの夫の母親が、お墓の前で、あいつは愛想笑いを続けているんだろう、というようなことを言っていたが、それはおそらく真実である。ミタがやめたのは、笑顔ではなく、作り笑いなのである。それはまさしく、松嶋菜々子があちこちで浮かべている、あの偽装の笑顔である。

http://www.google.co.jp/search?q=%E6%9D%BE%E5%B6%8B%E8%8F%9C%E3%80%85%E5%AD%90&hl=ja&prmd=imvnsuol&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ei=u2DyTslkz5CJB_eJobUB&ved=0CDYQsAQ&biw=1743&bih=1079

三田灯はこの恐るべき経験を経て、このような偽装の笑顔がどれほど危険であるかをようやく学んだ。それゆえ、それを放棄したのである。彼女が思い知ったことは、この世間そのものが偽装に満ちており、その狂った世界のただ中では、本当の笑顔が生まれる情況など、ほとんど存在していない、という恐るべき事実であった。

彼女が何度も死のうとして死ねなかったのは、晴海さんの言うように、彼女が生きていることに、何か意味があるからである。その意味とは、彼女がこの恐るべき事実に直面しておりながら、しかしそれでも、本当の笑顔が生まれる可能性のあることを、信じているからである。それゆえ最終回で晴海さんは、「私もあなたの笑顔が見たい。だけど、自然に出てくるのを待つ。」と言ったのである。それは単に三田灯の心が開かれる、という意味ではない。この世界が、人々に本当の笑顔をもたらす、そういう世界になる、という意味である。

(ちなみにこれは『エピソード・ゼロ』を見ないで書いている。あとでチェックしてコメントしたい。)


(つづく)

  1. 2011/12/22(木) 10:14:37|
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「家政婦のミタ」とマイケル・ジャクソンの思想(1)



http://www.ntv.co.jp/kaseifu/

凄いドラマであった。考えれば考えるほど、ストーリーが完璧に出来ていて、驚いてしまう。遊川和彦という脚本家のことも知らなかったのだが、なぜこんな正しいものを作れるのだろうか。

それから、テレビをほとんど見ないので、松嶋菜々子という女優も知らなかった。完璧な演技であった。おそらく、これは単なる演技ではないのだと思う。というのも、最終回の特別編と本編との間に風邪薬のコマーシャルが流れていたのだが、

http://www.taisho.co.jp/pabron/sg/tvcm/

これが全く欺瞞的なのである。ネットで画像を検索してみたが、いずれも魅力のない偽装の表情ばかりであった。ミタさんが圧倒的に存在感があり、魅力的である。

ということはおそらく、こちらが彼女の本当の姿に近いのである。彼女の健康そうでにこやかな姿の背後に、押し殺された悲しみと苦しみとが、渦巻いているのであろう。それを見抜いて起用したというのは、大変なことである。また、それを怖れずに引き受けた彼女の勇気にも敬意を表したい。

また、斉藤和義の主題歌も、それから、ミタさんが暴走するときの音楽も非常に効果的であった。下のコンサートのバージョンよりも、ドラマの方で、最後の「やさしくなりたい」というところでブチッと切れるのが衝撃的だった。



(つづく)
  1. 2011/12/22(木) 09:45:53|
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12/21のツイートまとめ

anmintei

ありがとうございます。私もわざわざ同僚に嫌われるようなネーミングは避けたかったのですが、思いついた瞬間に、それ以外、考えられなくなりました。@A_laragi @MasakiOshikawa 題ありがとうございます。そのあたりも頭の片隅において、読ませていただきます。(´-`)
12-21 17:06

私も意図してこの名前ににしたのではないのです。東大話法によって最も被害を受けて苦悩しているのが、東大関係者であることから、不可避だと思いました。@MasakiOshikawa @a_laragi 私もネーミングはどうかと思ったのですが、実は適切だったような気もだんだんして来ました
12-21 16:45

  1. 2011/12/22(木) 00:00:00|
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